2016.4.11
今となってはMV(ミュージックビデオ)って呼ぶ事が多いけどCDの宣伝用ビデオなんで
その当時はPV(プロモーションビデオ)って普通に言ってた。
CD+DVDなんていう形でPVも商品の一部になったり、iTunesで売られたり
「宣伝用の映像じゃなくて作品なんだ」みたいな風潮で呼び方が変わっていったのかな?
今となってはどっちでも良いんだけど。
PV初監督、それはHi-STANDARDのGrowing Up。
当時、スペースシャワーTVの子会社でSEPという大きな映像制作会社にいたので、周りのディレクターが少しずつPVを作り始めていて「PVがカッコイイ」という雰囲気になっていた。
自分はPUNK ROCK TVっていう番組作りに満足していたんだけど、そういった環境もあって、少しずつPVも作ってみたいなぁという漠然とした思いが湧いてきていた。
そんなある日、この初めてのPV仕事は直接メンバーから依頼されたんじゃなくて、当時の所属レーベルTOYS FACTORYからSEPに正式なPV制作のオファーで来ていた。ハイスタのメンバーはすでに仲良くなっていたんだけど、きっとメンバーも「PVって何?」って感じだし、僕も「PVってどうやって作るの?」って時代だったので自分達でPVを作り出す発想なんて無かったと思う。
でも、ここから面白い展開が始まります。
自分のいる会社にハイスタのPV依頼が来たのに、すでに有名どころのPVを作っていたプロデューサーやディレクターは誰も興味を持たなかった。きっと他の人が手を挙げていたら、新米ディレクターの僕まで話が来なかったと思う。けど、ラッキーな事にPVなんて作った事のない自分のところに「PUNK好きだよね?やってみる?」って具合に話がきて「もうメンバーとは番組でも知り合っているので、是非やらせてください!」と言って僕のPV初監督が決まった。
メンバーとの打合せ。
渋谷にあるレコード会社に行くと、いつもの「よろしくね!」って感じで打合せが始まった。ただ、話の内容は「どの曲をPVにするか?」だった。「どの曲が良いと思いますか?」って聞かれて、内心「えっ、決まってないの?どの曲でも作りたいよ!」って思った。
結局、このアルバムからは3曲のPVが作られるんだけど、1本目はGrowing Upに決まった。
みんなでアイデアを出しながら、あの時はEPITAPH RECORDSからリリースされるバンドのPVに影響されまくっていたので、とにかくNOFXのLeave It Aloneみたいなビデオにしたかった。
撮影は下北沢LOFT。
内容はライブハウスでの演奏シーンで観てもらえば分かると思うけど、お客さんはバンド仲間に来てもらった。なんと、みんなへのお礼はビールとマックのハンバーガーだった。バーカウンターに座って、ちょっとふざけて歌うシーンも撮った。あと、GROWING UPのアルバムジャケットで使われている、ブロックで出来たライブハウスと人形を会社に帰ってからコマ撮りした。2時間くらいひたすらコマ撮りして出来た映像を再生したら3秒で終わった時には愕然とした。
そんなこんなで始めて作るPV。
一生懸命考えて、撮影して、編集した。
ついに完成。
まず、会社の小さな部屋で1人ひたすら編集をする。当時はパソコンで編集は出来なかったので、再生用のデッキと録画用のデッキの間にコントローラーを繋いだテープの編集機でこれが当たり前だった。
ここで全体のカット割りを自分で作って、出来上がったテープを大きな編集室に持ち込んで色や質感、エフェクトなどの作業をして完成させる。
大きな編集室に入る日。
知らないスタジオで知らない人と作業するし、若造が生意気に10歳くらい年上の編集スタッフに指示を出さなきゃならないから緊張してたのを覚えている。
当然、YouTubeもないから、あーだこーだ口で説明して何とか思っていた色になった。
でも何かが違う。テレビで観るPVと比べて映像が凄く生っぽい。例えて言うなら、世の中のPVは映画みたいな質感で、自分のはMステなどテレビで流れてる様な生っぽさがある。
何でだ!
スタジオを使える時間も少なくなってきてる。
1人で来てるから助けてくれるスタッフもいない。編集スタッフに聞いて「こいつ何も分かってないな、素人が!」って舐められるのもヤダ。
やばい、どうすれば良い?
みんなどうやってるんだ?
冷や汗をかきながら考えてる時、ある事を思い出した。
先輩ディレクターの編集に立ち会うと、みんな「エフをかけて」って指示を出していた。何のこっちゃ知らないが良く聞く言葉だった。
もしかしたら、この「エフをかける」という魔法の言葉を使えば、みんなと同じ映画みたいな質感になるんじゃないか、生っぽいダサい質感からサヨナラするんだ。でも、これで違ったり「はぁ?何言ってんのコイツ」みたいな事になったらお手上げだ。そんな事を考えながら一か八か
「あのー、エフかけてもらえますか?」と言った。
編集スタッフの返事は「了解」だった。
魔法の言葉が通じた!
そしてエフをかけた後に再生された映像は映画の様な質感だった!
エフとはFILM効果の頭文字のエフで、簡単に言うとテレビなどのビデオ撮影は基本1秒のコマ数が30コマで出来ていて、フィルムでは1秒のコマ数を変えて24コマで撮影するので、コマ数を減らすと生っぽさが無くなり、当時ビデオで撮影された場合は編集でコマ数を減らすエフェクトを使い、これを業界用語で「エフをかける」という。
いま考えると不思議なんだけど、誰も作り方を教えてくれなかったし、自分も聞かなかった。
色んなPVを観てこんなビデオを作りたいって影響は受けたけど、真似はしなかったしやり方も自分たちで作り出した。それが自分達のスタイルになったんだと思う。(分かんない事は聞いた方が早いけどね)
後日談としては始めて作ったこのPVがMTV JAPANで流れて、クレジットのバンド名の下に自分の名前が書いてあった時は嬉しかったなぁ。
そして社内ではプロデューサーが「パンクバンドなのに、こんなポップなビデオでええんか?」って言ってきて「これからの時代はこれなんです!」って言ったのを覚えてる。
こんな感じでPV監督としてのキャリアがスタートしました。
ちなみにディレクター名のUGICHINはウギチンと読みます。
苗字じゃないです。
名前がウギで、日本に帰化するまではチンという韓国名があったので、それを逆にしただけです。
当時の先輩が付けてくれました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/UGICHIN
あと、パンク系の仕事が多いので初めての方に会うと「めちゃめちゃパンクスの人が来ると思ってました」と言われる事が良くありますが、こんな感じです。
たぶん、変な名前だしモヒカンに 鋲ジャンで恰幅の良いイメージだったのかな?
オジサンの写真載せてもアレなんで若いときの写真です。
27歳くらい、どこかの雑誌から。
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